近年ブドウは夜の気温の上昇により着色がしにくくなっています。
ブドウの着色不良対策として環状剥皮処理(かんじょうはくひしょり)を行います。
環状剥皮をすることで転流する養分を房に集められて、着色を促進させられます。
今回は具体的な環状剥皮の方法と使った道具、行う時期を紹介します。
- 環状剥皮の時期は満開日から30日~40日後頃の7月1日~上旬の間
- 環状剥皮をしたのち約一ヶ月後にテープを剥がす
- 環状剥皮処理をした樹は着果量を少し減らす
- 環状剥皮は色付きを良くして、収穫時期を早める
\ 環状剥皮におすすめの道具/
ブドウの環状剥皮処理の目的と着色するメカニズム
- 環状剥皮処理の目的
- 環状剥皮処理のメカニズム
- 環状剥皮処理と着色(アントシアニン)の関係
を解説していきます。
環状剥皮処理の目的
着色期の高温が要因とされ、近年の温暖化が拍車をかけていると言われています。
その温暖化によりブドウの着色が悪くなっていて、なかなか色づかなくなっています。
対策として、ブドウの着色向上には地下部への同化養分の移動を抑制するために、環状剥皮を満開日から30~40日後の時期に行います。
葉の光合成物質を環状剥皮した箇所より上の位置で循環させることで、着色を促進したり糖度upにつながります。
巨峰の試験では果皮中のアントシアニン含量は環状剥皮処理を行った果房の果皮に多く、無処理に比べ 1. 5倍から1. 7倍多いという結果だったそうです。
黒や赤系ブドウもそうなんですが、青系ブドウも糖度upをさせるために行われています。
環状剥皮処理のメカニズム
花芽誘導や果実品質向上などを目的に枝や主幹の樹皮部分を、幅数mm~1cm程度環状に剥ぎ取る栽培技術をいう。
環状剥皮によって篩管がなくなり導管が残るため、根からの水分と窒素(N)の移行に支障はないが、葉でつくられる同化産物(C)が枝葉にとどまる。
このため、剥皮部分より先端ではC/N比(炭素と窒素含量の比率)が高まり花芽形成が促進されると考えられている。
ただし、樹勢の低下などで窒素が少ない栄養状態の樹に環状剥皮を行なうと、不充実な花ばかり多くなり一挙に樹が衰弱してしまう場合がある。
樹勢の維持のため、処理した部位が年内に一部でも癒合する必要があり、目的に応じて環状剥皮の処理時期と程度(剥皮幅)が異なる。
環状剥皮処理と着色(アントシアニン)の関係
巨峰への環状剥皮処理をした試験では、果皮中のアントシアニン含量は環状剥皮処理を行った果房の果皮に多く、
アントシアニンの量は無処理に比べ 1. 5倍から1. 7倍多いという結果でした。
アントシアニンが多いほど、色付き(着色)が良い結果になります。
このことから、環状剥皮処理は色付き(着色)を良くすることが分かります。
また、環状剥皮を行うことで収穫時期が早くなる結果も出ました。
無処理区と比べて環状剥皮区はアントシアニン含量が多い。
累積収穫房率が 8割程度となる時期は無処理では8月20日頃であったが、環状剥皮処理樹では8月10日頃で、環状剥皮を行うと早期に高い収穫率となる。
ブドウの環状剥皮処理と着色・気温・糖・根の関係
着色・気温・糖の関係
気温と着色との関係瀬戸内沿岸部の高温地域において、‘安芸クイーン’の着色を向上させることを目的に研究を行った。
まず、温度と着色との関係を調査した結果、着色開始後 8~21 日目の気温が‘安芸クイーン’の着色にとって重要であり、
この時期に夜温が25℃以下に低下する時間が長いほど、着色が良好となることが明らかとなった。
(図1,Yamane ら、2006;Yamane・Shibayama、2006b;山根ら、2007)。
瀬戸内沿岸部では、着色開始後 8~21 日目が 7 月下旬から 8 月上旬の 1 年で最も暑い時期と重なり、着色不良を招いていた。
しかし、圃場の気温を下げる有効な手段はない。
このような地域では、逆に生育初期に保温し、熟期を最低 3 週間前進させることにより、比較的涼しい時期に着色させることが有効である。
また、環状剥皮は根の伸長を停止させることから、樹を衰弱させることが懸念されている。
着果量を減らした上で環状剥皮を組み合わせることで、大きな効果を出すことができた。
この理由として、環状剥皮は葉でつくられた養分が根へ移行することを遮ることから、着果量を減らすことにより、葉でつくられた養分が果実へ多く蓄積したことが原因と考えられた。
実際に環状剥皮により着色が向上した果実では糖度が大きく向上していた。
メモ
- 着色開始後 8~21 日目とは7月下旬から8月上旬
- その時期が最も暑い時期のため着色が悪い
- 環状剥皮だけでは樹が衰弱するので着果量を減らして調節する
- 環状剥皮のみ、着果量の減少のみでは着色の改善効果は低い
- 環状剥皮処理+着果量の調整(減少)で大きな効果がある
環状剥皮処理と根の関係
環状剥皮処理は、着果量の多少にかかわらず、新根の発生を約 2 週間停止させたが、剥皮部がゆ合した後の着果量が少ない場合には根が旺盛に伸長し、7 月末には無処理樹と同等になった(図3)。
なお、翌年の生育は、すべての処理区間に差がなかった。
以上のことから、着果量を軽減し、環状剥皮を行えば、効果が大きいだけでなく、根の伸長を減少させないことが明らかとなった。
メモ
- 環状剥皮処理のみでは樹が衰弱するリスクがある
- 樹の衰弱を防ぐためにも環状剥皮+着果量を少し減らすことが重要
ブドウの環状剥皮処理の時期
満開日から30日~40日後頃に行います。
種無しブドウの場合はジベ処理1回目の日時を記録しておくと良いです。
その日から30~40日後になるので。
ここ神奈川県では露地栽培での藤稔の満開日はおおよそ6月1日頃のため、環状剥皮は7月1日~上旬の間に行います。
シャインマスカットはやや遅く6月10日前後が満開日なので、環状剥皮は7月上旬~中旬の間に行います。
環状剥皮をおおよそ7月に行うのはベレーゾン期が関係しています。
メモ
- 満開日から30日~40日後頃に行う
- 巨峰や安芸クイーン・藤稔は7/1~上旬
- 開花期がやや遅いシャインマスカットなどは7月上旬~中旬の間
ブドウの環状剥皮処理の注意点
樹勢が弱っている樹にはしないのが基本です。
樹勢が弱っている樹に環状剥皮をすると最悪の場合は樹が枯れる恐れがあります。
なので樹勢が心配な樹には主幹ではなく亜主枝か片側主枝に環状剥皮を行いましょう。
また、環状剥皮をした樹は着果量を少し減らすことで樹の衰弱を防げます。
メモ
- 樹勢が弱い樹に環状剥皮をすると枯れるリスクがある
- 環状剥皮をした樹は房数を減らして着果量を管理しましょう
- 着果量を減らせば環状剥皮の幅は5mmで十分効果がある
- あまりに幅が広いと癒合不良となり樹の衰弱リスクが高まる
ブドウの環状剥皮処理の幅
環状剥皮の幅は通常は0.5〜1cmです。
ただ樹勢が強すぎる木は3cm幅で環状剥皮をしました。
環状剥皮の幅よる影響の変化はあまり無いという研究結果がありますが、樹勢が強すぎる樹のため生育を抑えるためにあえてやってみました。
昨年は樹勢が強い木に環状剥皮をしても効果がなかったので。
1cmほどだとすぐ癒合してしまうため、幅を広くして癒合を遅くする事で、光合成の養分を長い期間果実に循環させるのが狙いです。
サボテン 環状はく皮ナイフ No.B-9ではナットを追加することで幅を変更することが可能です。
ただ幅よりも、着果量を減らせば着色がより効果的です。
ブドウの環状剥皮処理の手順・方法
手順
- ブドウの粗皮削り
- ブドウの環状剥皮をするところに目印をする
- 目印に沿って環状剥皮をする
- マイナスドライバーで薄皮を残さず除去する
- テープをしっかり巻く
- 一ヶ月後にテープを外す
ブドウの粗皮削り
粗皮削りをして古い皮を剥がして環状剥皮をし易いように整えます。
使った道具は粗皮削り専用の道具です。
このとき、しっかり粗皮を削れていないと環状剥皮をするときに分厚すぎて刃が食い込まず、手間取ってしまいます。
『※粗皮がきちんと削れていなかった状態』の画像のように師部のさらに外側に粗皮が残っています。この時は環状剥皮ナイフがうまく刺さらず、とても手間取りました。
関連道具
ブドウの環状剥皮をするところに目印をする
環状剥皮をする所にマジックでグルッと目印をつけます。
もしくはビニールテープなどを一巻きすると目印として分かりやすいです。
関連道具
目印に沿って環状剥皮をする
皮に食い込むように、引っ掛かるように環状剥皮ナイフなどで傷をつけていきます。
しっかり食い込ませないと綺麗な切断面ができず、剥皮するときに手間取ります。
関連道具
マイナスドライバーで薄皮を残さず除去する
このときに薄皮を残さないようにしましょう。
少しでも薄皮やゴミが残っていると環状剥皮の効果は半減してしまいます。
関連道具
テープをしっかり巻く
傷口にテープを巻くことで、綺麗に癒合してくれます。
ビニールテープで環状剥皮部を巻きましたが雨風に弱いので、2~3重に巻いた方が外れにくいです。
関連道具
環状剥皮後のテープを外す時期
環状剥皮をしてから約1ヶ月後にテープを剥がします。
そのままにしておくとブドウスカシバが入り込んで幹が食害にあうので注意しましょう。
環状剥皮処理から30日後のブドウの着色の様子
上の画像は環状剥皮処理をして30日経過した状態のブドウの房です。
左の画像が環状剥皮処理をしたブドウ、右の画像はしていないブドウです。
環状剥皮処理をしたブドウの方が右のブドウよりも黒く色づいています。
これにより収穫時期が早まり、8月~9月に発生する台風より前に収穫ができるので、裂果を防ぎ秀品率を向上できます。
収穫時期が遅くなるほど、台風などの災害リスクが高まったり病気の発生もあるので、収穫時期は早いほうが良いです。
また、環状剥皮処理をした区、しない区と分けることで収穫時期をずらし、繁忙期を分散させることも可能です。
一気に収穫してしまうと、ブドウの調整や出荷も一気にすることになり、疲労も増えますし、人(労働力)も増やす必要があります。
なかなか人(労働力)を増やせない場合は、収穫時期を分散させるのも経営を行う上でのポイントになります。
電気柵などの設置を前倒しにする
着色が通常より早くなることで、害獣などの襲来もその分早くなります。
なので、通常よりも早めに電気柵などを設置します。
ブドウの環状剥皮処理に使った道具
粗皮・皮削り
サボテン 環状はく皮ナイフ No.B-9
環状剝皮鎌二枚刃
マイナスドライバー
マジック
ビニールテープ
ブドウの環状剥皮処理のまとめ|メリット・デメリット・ポイント・参考資料
メリット・デメリット
- 着色を促進し、収穫が早まる
- 糖度が上がる
- 着色不良対策
- 収穫が早まるので、電柵の設置など作業の前倒しが必要
- 弱い樹にやると枯れるリスクがある
- 処理した樹は着果量を減らす必要がある
ポイントまとめ
- 環状剥皮の時期は満開日から30日~40日後頃の7月1日~上旬の間
- 環状剥皮をしたのち約一ヶ月後にテープを剥がす
- 処理をすることでアントシアニンの量が増えて色づきが良くなる
- 収穫時期が早くなる
- 環状剥皮処理をした樹は着果量を少し減らす
- 着果量を減らすならば環状剥皮処理の幅は5mmで十分効果がある
- 樹勢が弱い樹に対しては環状剥皮処理はしない
参考資料
参考資料
\ 環状剥皮におすすめの道具/
関連