2021/12/21 22:00〜放送の「ひと目でわかる」の種無しブドウはどうやって増えるのか?について青木果樹園が画像提供&監修のお手伝いをしました!
種無しブドウの代表であるシャインマスカットなどはどうやって種なしにしているのか?また、種なしブドウなのにどうやって木を増やすのかを深掘りして解説します。
項目 | 目的 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
種で増やす | ・品種改良 | ・簡単に増やせる | ・親と全く違う性質のブドウになる |
接ぎ木で増やす | ・増殖 | ・親と同じ性質のブドウを増やせる(クローン) | ・技術が必要(成功率が低い) |
挿し木で増やす | ・増殖 | ・親と同じ性質のブドウを簡単に増やせる(クローン) | ・病害虫に弱くなる |
茎頂培養 (組織培養) |
・ウイルスフリー ・大量増殖 |
・ウイルスが無い親と同じ性質のブドウを大量に増やせる(クローン) | ・専用の施設が必要 ・性質の変異が生じる |
上の表にざっと纏めましたが、くわしく解説するにあたり、まず種無しブドウの作り方と種で増やす方法と枝を切り取って増やす方法の違いについて説明します。
簡単な流れ
- 種無しブドウの作り方
- 種でブドウを増やす方法
- 枝を切り取ってブドウを増やす方法
種無しブドウはどうやってできる?
ジベレリン処理をすることで種なしブドウができます。
基本的に全てのブドウは種ありブドウですが(※3倍体ブドウなど元から種が無い品種もありますが、数が少ないです。BKシードレスが3倍体ブドウです。)、植物ホルモンの1つであるジベレリンを水に溶かして、開花時期にブドウの房をひたすことで、種ができる部分を抑制して種をできなくさせます。
この種なしブドウにするジベ処理を全てのブドウの房1つ1つ行います。それも毎年です。
種ができなくなるので必然的に種でブドウは増やせなくなります。ではどうやってブドウを増やすのかというと、挿し木や接ぎ木という枝を切り取って増やす方法を使います。
また、ジベレリンはブドウの時期によって効果が違いますので詳細は下記のリンクに記載します。
種でブドウを増やす方法について解説
『ブドウの種を取って増やす方法』は簡単に沢山のブドウを増やすことができますが、蒔(ま)いた種は全て違う性質のブドウになってしまいます。つまり藤稔(ふじみのり)やシャインマスカットから種を採取して蒔いたとしても、種からできるブドウは藤稔やシャインマスカットにはならないのです。
それは蒔いた種からできるブドウが全く別のブドウになるのは、遺伝子型が関係しており、藤稔の種を蒔いたとしても種からできるブドウは藤稔のような黒色ではなく赤や緑色だったり、粒が小さかったり葉っぱのサイズが藤稔と違ったりします。
同様にシャインマスカットの種からできるブドウも赤色だったり黒色だったり、皮ごと食べれない場合もあります。
つまり種からできるブドウは親(この場合、藤稔やシャインマスカット)とは全く別のブドウになってしまうのです。
種で増やす方法は品種改良が目的
では、『種を取って増やす方法』はどんな時に使うのか?具体的には品種改良をするときに使います。品種改良はより良い性質のブドウを生み出すことです。
ただし、「種を取って増やす方法」では同じ品種を増やすことはできないので、同一個体の増殖には不向きです。(※ブドウなどの果樹においてはです。野菜ではF1といった方法があります。)
例えば当園で生まれたブドウの藤稔は井川682とピオーネを交配させて種をとって生まれました。
井川682とピオーネにはそれぞれ良い点と欠点がありました。「井川682」は大粒かつ旨いブドウで栽培しやすかったが輸送性・貯蔵性が低いのが欠点でした。そこで、祖父の(故)青木一直(あおきかずなお)は栽培が難しいが輸送性・貯蔵性の良い「ピオーネ」と「井川682」を交配することで、良いブドウが生れるのでは?と考えた結果、品種改良により生まれたのが『藤稔』です。
(親♀)井川682の性質
- 大粒かつ旨いブドウ
- 栽培しやすい
- 輸送性が悪い
- 貯蔵性が低い
(親♂)ピオーネの性質
- 輸送性が良い
- 貯蔵性が良い
- 栽培が難しい
- 粒は中粒(そこそこ大きい)
(子供)藤稔の性質
- 大粒かつ旨いブドウ
- 栽培がしやすい
- 輸送性がまあまあ良い
- 貯蔵性がまあまあ良い
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同じ品種を増やすのはどうすれば良い?
そこで、同じ品種(藤稔やシャインマスカットなど)を増やす方法は枝を切り取って増やす技術(挿し木や接ぎ木)を使います。
この枝を切り取って増やす方法であれば、切り取った親とほぼ同じ性質が子にも伝わります。つまり全国にある果樹園に存在するシャインマスカットは元をたどれば1本の木から増やしたものになります。
大本は別のブドウを交配させて種を取り、その種(シャインマスカット)が成長したら、そこから枝を取って増やしたシャインマスカットが全国の果樹園に散らばったということです。
なので新しい品種が1つでもできれば、そこから枝を切り取って無限に増やすことが可能です。
枝を切り取ってブドウを増やす方法『種なしブドウの木を増やす』
ブドウは種から増やすことはできますが、それだと蒔いた種からできる子供は親とは全く違う性質になってしまいます。また、種無しブドウも種がとれないため子供を増やせません。そこで同一個体(クローン)を増やすには枝を切り取って増やす方法、挿し木や接ぎ木を行います。
上の画像は台木(緑色)に別の品種(茶色の枝)を接ぎ木している画像です。こうすることで藤稔やシャインマスカットなどの種無しブドウを接ぎ木して増やすことが可能です。
ただし、シャインマスカットなどの特許がある品種は、昨今の海外への無断流出により、法改正をして現在では増殖には許可が必要です。特許のある品種は無断で増殖すると罰せられます。
基本的にプロは苗木屋さんから苗木を注文します。苗木のプロが苗を作っているので品質がとても良いからです。あと、接ぎ木は大変手間がかかるのと成功率が低いためです。自分でやるには手間とコストがかかるので苗木屋さんから注文しています。
下の画像は以前に自分で接ぎ木して成功したときの枝の画像です。
接ぎ木は本当に難しいのですが、挿し木はとても簡単です。切り取った枝を土に挿して放置しておくだけでOKです。ただ挿し木は害虫による抵抗性が薄れるので、あまりおすすめしません。※他にも理由はありますが。
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植物組織培養で種無しブドウを増やす
ブドウの一部を切り取り、それを試験管で培養することでブドウを増やすことが可能です。上の画像は茎頂培養と言われる培養方法をしている様子です。
成功すると右の画像のように植物体が再生されます。この茎頂培養はウイルスフリー個体をつくれる技術かつ大量にブドウを増やせる技術です。
通常の接ぎ木や挿し木では元のブドウの木にウイルスが入っていた場合、子供にも引き継いでしまいます。それを防ぐために、茎頂培養を行い→ウイルスが無い木を作る→そこから接ぎ木や挿し木で増やしていきます。
この作業をすることで、ウイルスが無い優秀なブドウを増やすことが可能です。ただし増殖中に変異が発生する可能性もあります。
成長が進むと馴化(じゅんか)という作業にうつります。試験管内で育てていたので急に外部の環境にさらせてしまうと枯れてしまうので、外部環境に慣れさせる作業になります。
馴化が終われば、あとは通常のポットに移植です。ちなみに画像は東京農業大学 園芸バイテク学研究室様から頂きました。
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まとめ
項目 | 目的 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
種で増やす | 品種改良 | 簡単に増やせる | 親と全く違う性質のブドウになる |
接ぎ木で増やす | 増殖 | 親と同じ性質のブドウを増やせる(クローン) | 技術が必要(成功率が低い) |
挿し木で増やす | 増殖 | 親と同じ性質のブドウを簡単に増やせる(クローン) | 病害虫に弱くなる |
茎頂培養 (組織培養) |
ウイルスフリー 大量増殖 |
ウイルスが無い親と同じ性質のブドウを大量に増やせる(クローン) | 専用の施設が必要 |
- ブドウはジベレリン処理で種なしになる。
- 種まきでは同じブドウができないので、主に品種改良が目的。
- 種無しブドウは枝を切り取って別のブドウに接ぎ木することで増やすことができる。
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