よく果物は追熟するから「置いておけば甘くなる」と言った言葉を聞きますが、厳密にはそれは間違っています。
日本梨とブドウは追熟しないので、購入後(収穫後)は甘くなりません。
梨やブドウの果物の性質からなぜそれは間違っているか?
また、果物ごとの保存方法を解説します。
まずはじめに、果物にはクライマクテリック型と非クライマクテリック型の2種類があります。
簡単にいうと
- クライマクテリック型:収穫後に追熟することで日が経つにつれ肉質が柔らかくなったり甘くなるタイプ
- 非クライマクテリック型:樹上で完熟する頃に収穫したのち、日が経つにつれて肉質は柔らかくなるが甘さがほぼ変わらないタイプ
の2つのうち、どちらかに果物は分類されます。
つまり『果物は置いておけば甘くなる』という話がありますが『果物によって違う』ということです。
追熟(ついじゅく)とは、一部の果物などを収穫後、一定期間置くことで、甘さを増したり果肉をやわらかくする処理のこと。
- 日本梨とブドウは追熟しないので、収穫後に甘くなることは無い。
- 日本梨やブドウは冷蔵庫で保管すると味の劣化がしにくく日持ちします。
- ブドウは品種にもよりますが鮮度保持袋+冷蔵庫で保管するのが最も日持ちが良く、長く味を楽しめます。
- 梨は購入後に冷蔵庫などで保管しても甘さは変わりません。(甘さが上がったり下がったりしない)
ただし酸味が減少することで、酸っぱい味が無くなるので甘く感じるようになります。 - 梨にはソルビトールという特殊な糖があり、それは冷蔵庫で冷やすことで甘さをより強く感じる。
- ブドウは品種によりますが味の劣化がしにくく、甘みや酸味がほぼ変わりません。
- ブドウは軸を少し残して粒々にして鮮度保持パックにいれると長持ちする。
\ 果物の鮮度保持に!/
追熟する果物・しない果物の違い
果物はクライマクテリック型(追熟型=追熟する果物)と、非クライマクテリック型(樹上完熟型=追熟しない果物)に分けられます。
具体的には下記の表に分類されます。
- キウイフルーツ
- 西洋ナシ(ルレクチェなど)
- リンゴ
- バナナ
- モモ など
- 日本ナシ
- ブドウ
- 柑橘 など
注意ポイント
厳密にいうと追熟型、樹上完熟型では無いのですが分かりやすくするためにこの用語を用いています。
また、同じ梨やブドウ、モモでも品種によって性質が異なるのであくまで大きな括りと思ってください。
上記のように追熟をすることで甘くなる果物と、樹上で甘くなりそれから収穫する果物に分けられます。
次はクライマクテリック型を掘り下げて説明します。
クライマクテリック型(追熟型)とは?
成熟期の後半あるいは追熟中に呼吸量が急速に増大する現象をクライマクテリックライズと言います。
そしてこの現象が生じる果物をクライマクテリック型果実と呼びます。
成熟過程において植物ホルモンの一種であるエチレンの濃度が通常の1,000倍以上も劇的に増加する。
この現象は、貯蔵中に減少した糖分の代わりに有機酸を呼吸基質として用いるために起こり、呼吸商が1を超えるのが特徴である。
このような性質のため、クリマクテリック型果実は、収穫後の貯蔵中に追熟を行うことができる。
参考
つまり、クライマクテリック型果実のキウイフルーツや西洋ナシ・バナナなどは
ポイント
- 収穫後(成熟期後半)、呼吸が増大するが有機酸(酸味成分)を使って呼吸しているので⇒酸味が減る!
- エチレン(成熟・老化促進の植物ホルモン)が増大する⇒追熟することでデンプンから糖へ変化し、果肉が柔らかくなり甘さも増す!
の性質を持つ果物と言えます。
有機酸とは果実に含まれるリンゴ酸・クエン酸・酒石酸などを指します。つまり酸っぱい酸味です。
よくキウイフルーツやバナナはリンゴと一緒に置いておくことで、果肉が柔らかくなり甘さを増すと言います。
それはリンゴが収穫後にエチレン(成熟・老化促進の植物ホルモン)を空気中に放出するので、
一緒に置いてある青いバナナやキウイフルーツがそれに反応して成熟するからです。
クライマクテリック型でも追熟が必要・不要な果実に分かれる
収穫後に呼吸が増大しエチレンが増加するクライマクテリック型でも、甘くなるのに追熟が必要な果実とそうでない果実に分かれます。
モモ(追熟は不要)
一般に栽培されているモモは【溶質】と呼ばれるタイプになります。
【溶質】のモモは収穫後にエチレンが増大して果肉が一気に柔らかくなります。
その結果、とろりとした柔らかい肉質になります。
ただし、甘さ(糖度)は上昇することは無いので、収穫時の時の甘さのままです。
産地では硬いモモが常識ですが、産地以外では輸送中にエチレンが増大して果肉が柔らかくなるため、スーパーで販売しているモモが柔らかいのが一般的です。
なので硬いモモは産地でしか食べれないのです。
しかし缶詰に使われている加工用のモモは【不溶質】と呼ばれ、成熟に伴いエチレンは増大しますが果肉が柔らかくなりにくいです。
果肉が硬いままなので貯蔵性が高いため、缶詰などに使われるのです。
貯蔵中は糖度はほぼ減少も増加もしていません。つまり収穫時の甘さのままを示しています。
ただクライマクテリック型果実通り硬度(硬さ)が一気に下がっていて果肉が柔らかくなっています。
日数が経つにつれて食味が悪くなっています。
また、同時にpHが上がっていて酸味が少なくなっています。(pHが高いほどアルカリ性なので酸味が少ない)
西洋ナシ(甘くするには追熟が必要)
西洋ナシは追熟を必要とする代表的な果実です。
収穫直後は果肉は硬く甘くないのですが、その後にエチレンを発生するので成熟が進み、柔らかく甘くなり食べれるようになります。
キウイフルーツ(甘くするには追熟が必要)
キウイフルーツも追熟することで柔らかく甘くなる果物です。
少し特殊で、多くの品種では樹上でも収穫後でもエチレンを発生しない果物なのです。
なので追熟させるには人為的なエチレン処理(リンゴを入れたりエチレンパックを入れたり)が必要です。
ただし、果実の中に軟腐病があると話は別です。
軟腐病はキウイフルーツが柔らかくなりしまいには腐ってしまう病気です。
この病気にかかると病気にかかった部位からエチレンが生成されて追熟が進みます。
ただ基本的には追熟が必要な果物になります。
非クライマクテリック型(樹上完熟型=追熟しない型)とは?
先ほど紹介した通り、クライマクテリック型果実は酸味成分を使って呼吸が増加します。
ですが、非クライマクテリック型果実は収穫後(成熟後)は呼吸が減少していきます。
ならば「酸味成分を呼吸で使わないから酸っぱいままか?」というとそれも違います。
日本梨の成熟と酸味の減少について
上の図のように日本梨などの非クライマクテリック型果実は、収穫時期に近づくにつれてデンプンから糖に変化していきます(左の図ではデンプンが減少して糖が増えています)
デンプンは口に入れるとザラつくかんじのものです。例えるならば生のジャガイモを指します。
つまりデンプンが糖に変わることで甘くなり、肉質が柔らかくなるのです。
同様に酸味成分であるリンゴ酸・クエン酸・酒石酸などは収穫時期が近づくにつれて減少していきます。
つまり非クライマクテリック型果実は、呼吸が増大せず追熟しない収穫時期には甘くて酸味が少ない樹上完熟型と言えます。
ココがポイント
収穫時期に近づくにつれて
- デンプンから糖へ変化する⇒甘くなり肉質が柔らかくなる
- 酸味成分が減少する
注意ポイント
品種によっては日本ナシでも追熟することで甘くなったり、収穫時期でも酸味が強い品種もあります。
幸水や新水では、かなりエチレンを生成するため貯蔵性が低いですが、二十世紀や晩三吉ではエチレンが少ないので一ヶ月以上鮮度が持ちます。
同じ梨でも品種よってかなり差があります。
梨の日持ちと糖度・酸味の関係
振動および貯蔵温度の品質への影響
果実硬度の変化
0℃貯蔵区のナシ果実は貯蔵期間を通して外観上も傷が無く、すべて食味良好であった。
10℃貯蔵区は貯蔵14日目までは健全であったが、貯蔵28日目にはいくつかの果実で傷が顕著に現れ、果肉も柔らかくなり、ほとんどが食味不良となった。
貯蔵温度の高さおよび貯蔵期間の長さは果実の目減り率を大きくし、硬度・ 含水率および糖度・ 酸度を低下させる影響があること、
これらの変化は振動を受けた場合、さらに加速されることを明らかにした。
ナシ果実の全糖は貯蔵中やや減少傾向にあるが、その程度は小さかった。
果皮色の変化は, 明度値が低くなるが、 赤色度値は高く、色相値も増大した。
つまり収穫後に保存期間が長いと果実が、
ポイント
- 柔らかくなる
- 果実の水分が減少する
- 酸味が抜ける
- 食味が落ちる
- 糖度は多少減少するがほぼ変わらない(さらに甘くもならないし、甘みが減ることもない)
なので、梨を購入後に冷蔵庫などで保管しても甘さは変わりません。
ただし酸味が減少することで、酸っぱい味が無くなるので甘く感じるようになります。
また、梨にはソルビトールという糖があります。このソルビトールは冷えるとより甘く感じる特殊な糖です。
なので梨は冷蔵庫で冷やして食べるとより甘く感じるのです。
ただし、日が経つにつれて食味などが劣化するので、購入後はお早めに召し上がりください!
ブドウの収穫後の糖度や酸度の変化について
①「巨峰」(有核)は、0℃または5℃で 20 日貯蔵しても果粒の劣化は少なく、糖度・酸度にも貯蔵開始時から変化は見られない。
30 日貯蔵すると、0℃、5℃とも糖度・酸度に大きな変化は見られないが、0℃では主に軟化による果粒の劣化が、5℃では食感の低下が見られる(表1)。
②「シャインマスカット」と「クイーンニーナ」は、0℃または5℃で 30 日貯蔵しても、カビや腐敗、軟化による劣化が少なく、糖度・酸度や食味も維持できる(表1)。
「巨峰」(有核)、「シャインマスカット」、「クイーンニーナ」の3品種を詰め合わせて0℃で貯蔵しても、概ね各品種単独で貯蔵した①,②の結果と同様であり、
「巨峰」(有核)は収穫後 30 日(詰め合わせ貯蔵後3週)を過ぎると食味評価がやや低下する。
上のデータを参考にすると巨峰(種あり)は貯蔵20日あたりから粒の劣化が始まっています。
しかし、シャインマスカットやクインニーナなどは20日たってもほとんど収穫時と変わりませんでした。
ブドウは品種によりますが劣化がしにくく甘みや酸味がほぼ変わらないことが分かりました。
しかしこれはあくまで品種によってで、竜宝や藤みのり、育種6号などの水分が多い品種は劣化が早いので早めにお召し上がりください。
上の3品種は日数が経過すると蒸散により水分が抜けていくので粒がフニャフニャになってしまいます。
おそらく糖度や酸度は変化がないので味には問題無いですが、なるべく早めに消費した方が良いです。
スーパーで販売している果物は糖度が低い?
スーパーで販売している梨やブドウの産地が離れている場合は早もぎしている可能性があります。
例)産地から販売先までの流れ
- 岡山や鳥取など産地から出荷
- 大田市場に到着
- 大田市場からスーパーへ出荷
- スーパーに到着
- 店頭に並べて販売
このようにどうしても産地から販売先まで日数がかかってしまいます。
産地と販売先(スーパー)が直接取引していれば1日〜2日で到着します。
そのため完熟状態(収穫適期)で収穫した果物を発送してしまうと、日が経つにつれて肉質がさらに柔らかくなるので、スーパーに並ぶ頃には傷みが出てしまい廃棄ロスが増加します。
また、輸送の振動によって果物に負荷がかかり劣化を助長します。
なので廃棄ロスを減らすために早もぎすることで糖度が完全にはのっていない状態の果物になりますが、肉質がやや硬めなので傷みが減り廃棄ロスも減少できます。
また、輸送に日数がかかるので酸味が抜けて肉質も柔らかくなるので、スーパーに並ぶ頃には丁度良い食味になります。
ただし、収穫後に甘さは上昇しないので、「産地から離れた果物は甘さが薄い」と言われてしまう所以です。
しかし販売形式上これはしょうがないのです。
大面積で栽培している場合、完熟(収穫適期)で一気に収穫しても1日に売れる量が限られていますし、売れ残った場合の廃棄リスクがグンと上がってしまいます。
なので大量に出荷する際は早めに収穫して日を分散して売る方法がベストになります。
また、道の駅や直売所などでは農家が直接出荷に来るので、収穫適期で収穫しているため糖度が高く鮮度が良いのでオススメです。
またはスーパーで購入する際は産地が近いものがオススメです。
追熟する果物・しない果物について|まとめ・果物別の保存方法・鮮度保持剤や鮮度保持袋
- 日本梨は購入後に冷蔵庫などで保管しても甘さは変わらない(糖度が上がったり下がったりしないので、収穫時の甘さのまま)
- ただし酸味が減少して、酸っぱい味が無くなるので甘く感じるようになる。
- 時間経過とともに肉質が柔らかくなる。硬い場合は少し置くと良い。
- ブドウは品種によるが冷蔵庫で保管すれば劣化がしにくく甘みや酸味がほぼ変わらない。(収穫時のまま)
- ただし品種によっては蒸散により水分が抜けやすいので早めに食べた方が良い。
果物別の保存方法
貯蔵方法 | 特徴 | 適する果物 | 適さない果物 |
---|---|---|---|
常温貯蔵 | 温度変化の少ない冷涼な場所で保存する | 柑橘、リンゴ、柿 | モモ、ブドウ、イチゴなど |
低温貯蔵 | 冷蔵庫で保管。0~5℃内で貯蔵。 | リンゴ,梨(日本梨、西洋なし)、ブドウなどほとんどの果物 | バナナなど低温障害を起こしやすい果物 |
冷凍貯蔵 | 果物を冷凍させ貯蔵。解凍後は肉質が変化するので注意 | パイナップルなど | イチゴ、モモなど肉質が劣化し易い果物 |
フィルム包装貯蔵 (鮮度保持袋) |
プラスチックのフィルムに果実を入れて保存。
ジップロックや専用のフィルム資材で蒸散が抑制されて劣化がしにくくなる。 低温貯蔵と併用すると良い。 |
柿、ブドウ、ビワなど | 温州ミカンなど |
日本梨やブドウは冷蔵庫で保管すると味の劣化がしにくく日持ちします。
また、ブドウは品種にもよりますがフィルム包装+冷蔵庫で保管するのが最も日持ちが良く、長く味を楽しめます。
鮮度保持剤や鮮度保持袋
通販サイトでも鮮度保持剤や保持袋が販売されているので、これを使って冷蔵庫で保管すれば長く楽しめます。
ブドウの鮮度保持【フレッシュホルダー】
フレッシュホルダー(ウォーターチューブ)という切り花に給水する道具があります。
これに水道水を入れてブドウの軸につければ水分が補給されるので日持ちが良くなります。
ブドウにも利用されはじめていて、鮮度保持の効果が立証されています。
ブドウの保存方法
軸の部分が無くなってしまうと、そこから水分が蒸散してしまうのでフニャフニャになりやすくなります。
上の画像のように軸を少し残して切ってから冷蔵庫に保管することで、蒸散を防げるため鮮度を保持しやすくなります。
また、食べるときは冷蔵庫から取り出しサッと洗うだけでいいので、食べやすいのもポイントです。
\ 果物の鮮度保持に!/
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