ぶどうの接ぎ木は適切な方法を行わないと、発根率や活着率が低くなり失敗してしまいます。
適切な方法とは、温床でボトムヒート(下部を暖める)&ルートンと言った発根促進剤を併用することでブドウの接ぎ木の成功率を上げることができます。
先に結論!
- 接ぎ木は4月以降に行う。
- 接ぎ木の前日に穂木を吸水させておき、当日枝の選別をする。
- 苗床に挿したあとは殺菌剤のベンレート水和剤を散布する。
- 温床は【ひなたぼっこ900 HB-20】がおすすめ。最初の10日間は接ぎ木部癒合を目的とし、30℃になるように加温する。癒合を確認したら底部が25℃になるように、温度を下げて発根を促す。
- 切り口には発根促進剤(ルートン)を塗布すると発根し易くなる。
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ブドウの接ぎ木とフィロキセラの関係
接ぎ木とは穂木(藤稔や竜宝、シャインマスカットなど実をつける上部)に台木(根っこを出す下部)をくっつける方法です。
ブドウでは過去にヨーロッパおよび日本でブドウネアブラムシ(フィロキセラ)が発生してブドウ畑が壊滅の危機に陥ったことがあります。
1884年(明治17年)の春、三田育種場から移植した樹に限られていたことから、そこから伝播したにちがいないとされている[7]。
その後、明治から大正にかけて大発生し、日本中のブドウ栽培が壊滅する危機に追い込まれた。
フィロキセラとはブドウ樹の葉や根にコブを生成してブドウ樹の生育を阻害し、やがて枯死に至らせる昆虫です。
その対策として、フィロキセラ耐性をもつブドウの台木を接ぎ木することで、壊滅を免れることができました。
また、その土地の土壌に合う台木を接ぎ木することで、大変良いブドウを生産できるメリットがあります。
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ブドウの接ぎ木の問題点
ただし、ブドウの接ぎ木のデメリットは、接ぎ木の成功率が低い点にあります。
ブドウは発根しやすく、挿し木は簡単にできるのですが、接ぎ木となると切り口の癒合+発根の2つが必要になるので非常に難しいです。
そのため成功率を上げるためには、適切な温度管理および水分管理が重要になります。
ちょっとした小話
ブドウの接ぎ木には今回のように接ぎ木する【休眠枝接ぎ】と、春以降に出てくる新梢同士を接ぐ【緑枝接ぎ】、緑枝に休眠枝を接ぐ【ハイブリッド接ぎ】があります。
それぞれで接ぎ木のし易さや、その後の生育の違いなどありますが、今回紹介する【休眠枝接ぎ】は接ぎ木の成功確率は低いものの、接ぎ木後の生育が最も良い方法になります。
ブドウの穂木と台木の採取と接ぎ木の時期
ブドウの穂木と台木の採取時期と、接ぎ木の時期に注意しましょう。
時期を間違えると枝が衰弱して成功率が下がったり、成功後でも寒さで芽が枯れたりします。
ブドウの穂木と台木の採取時期
穂木は11月から12月の間に採取して冷蔵庫で保存しときましょう。
1から2月は厳寒期のため、穂木の水分状態があまり良くないためです。
保存方法は採取した穂木をビニール袋に入れて密閉して保存するか、新聞紙でくるんで乾燥しないようにします。
このとき、水はかけないようにしましょう。水をかけるとカビが発生する可能性があるので水がかからないようにします。
また、ビニール袋は冷蔵にいれても結露しにくいタイプのしっかりした袋にします。
下のが枝の保管用として使用している袋になります。
厚みが0.025mm、耐冷温度が-30℃で冷蔵庫内での長期間保管に適しています。
ブドウの接ぎ木の時期
露地では気温が上がってくる3月頃に行いますが、寒冷地では晩霜害が起こる可能性があるので4月頃がオススメです。
ハウス内での温床で穂木の成長を促進させる場合は、2月頃に接ぎ木を行うことで早めに発芽させて1年で大きな苗を育てることができます。
また、接ぎ木の適切な気温を測るためにウェザーステーションをハウスに設置しています。
ハウス内の気温が安定したのを確認した後、接ぎ木をするのがオススメです。
ココがポイント
- ブドウの穂木の採取は11月~12月、ビニール袋か新聞紙で包んで冷蔵庫で保管する。
- ハウス内での温床での接ぎ木ならば2月頃に行う。
- 露地での接ぎ木ならば4月頃に行う。
ブドウの接ぎ木の準備(前日まで)
ブドウの接ぎ木の事前準備の注意点を画像を交えて解説します。
準備の手順
ブドウの穂木に吸水させる
接ぎ木をする前日までに、採取した穂木は一昼夜水に浸けて、水分を吸わせておきます。
穂木は中の水分がカラカラの状態です。そこで吸水させることで萌芽ができる状態にもっていきます。
また、吸水させても穂木が枯れて死んでいる場合があります。
その判断ポイントは接ぎ木の実践で後述します。
ブドウの苗床の準備
苗床はバーミキュライトとロックウールを用いました。
どちらも使用前に十分に吸水させておきます。
接ぎ木部が20~30cmと高い位置にあり、接ぎ木部も土で覆う必要があるので、
成功率を上げるためにはバーミキュライトの方がオススメです。
ただし、加温および保温性が保てるなら、ロックウールの方が接ぎ木成功後に移植をするときが楽なのでオススメです。
バーミキュライト
バーミキュライトのメリット
- 保水性:保水性が良く乾燥しにくい。
- 無菌性:バーミキュライトを作る際に、高温で処理するため無菌状態なので病害虫の発生を減らすことができる。
- 軽量:かなり軽く、持ち運びが楽なので苗床の設置がし易い。
- 保温性:熱が逃げにくいので温度を保ちやすい。
また、バーミキュライトを入れる容器は、発泡スチロールの容器の底をくり抜いたものを使用しました。
底をくり抜かないと温床の熱が遮断されてしまうので、ボトムヒートができなくなるからです。
発泡スチロールの箱の高さは20~25cm以上のものを使用します。
接ぎ木部がそのぐらいの高さになるので、接ぎ木部が土で埋もれるくらいにしたいからです。
オガクズなどを詰めた挿し床に接ぎ木部位まで完全に床に埋まるように挿す。
そして挿し床全体を約 30 ℃に温めて,接ぎ木部のカルスの発達を促す。
ロックウール
ロックウールのメリット
- 保水性:保水性が良く乾燥しにくい。
- 無菌性:ロックウールも、高温で処理するため無菌状態なので病害虫の発生を減らすことができる。
- 軽量:かなり軽く、キューブからマットタイプがあり、様々な作物に応用できる。
- 保温性:熱が逃げにくいので温度を保ちやすい。
- 注意点:粉塵がある場合はマスクなどを着用する。また、捨てるときは【ガラスくず・コンクリートくず及び陶磁器くず】として処分する。
ココがポイント
- 接ぎ木の前に一昼夜吸水させる。
- 接ぎ木の前に、苗床は灌水して吸水させておく。
- 発泡スチロールの容器を使うときは底をくり抜いておく。
- 接ぎ木部が土で被る位の高さの容器を使う。
ブドウの接ぎ木の実践手順(当日)
接ぎ木の手順
ブドウの生きている枝の選別・判断方法
枯れている穂木を接ぎ木をしても発根しないので注意しましょう。
枯れているブドウの枝
一昼夜吸水させても上のように切り口が茶色のままの枝は枯れてしまっています。
このような枝は死んでいるので破棄しましょう。
生きているブドウの枝
吸水させると生きている穂木は切り口が緑色をしています。
このような穂木を接ぎ木につかいます。
ブドウの穂木の調整【上下の向きに注意する】
芽が上向きが枝の上部になります。逆さまに接ぎ木をしないように注意しましょう。
接ぎ木鋏で穂木と台木のパズルをつくる
台木(下部)の長さは15~25cmにして芽は2つにします。この2つの芽は地中に埋まるようにします。
穂木(上部)は10~15cmほどで芽は1~2芽残します。
ココがポイント
- 節の中央で切断する
- 台木は必ず芽欠きをする
- 同じ太さの穂木と台木を組み合わせる
- 台木の長さは15~25cmほどにする
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接ぎ木部と頭部分をニューメデールで覆う
ニューメデールを使うときは、接ぎ木部はしっかりと粘着させるように伸ばしながら巻きます。
また、切り口は蒸散で芽が枯れないようにうっすらと覆います。
接ぎ木した品種毎に仕分けられるので便利です。
本数が多いと最初に接ぎ木した枝が乾燥してしまうので、その防止のために水を張っておきます。
ブドウの芽欠きと発根促進剤を塗布
挿し穂の先端は斜めに切り、地中に入れる箇所の芽は切り落としときます。
穂木の下部を斜めに切るときは切れ味の鋭い接ぎ木ナイフを使いましょう。
切れ味が鋭いと切断面がデコボコせず癒合(カルス化)し易いのが理由です。
その後、発根促進剤のルートンの粉を先端に塗布して接ぎ木床にさします。
ブドウの穂木の苗床への挿し方
上の画像のように穂木の切り落とした芽が地中にしっかりと隠れるように、周りの土を固めるように苗床に挿します。
そうすることで潅水しても土が緩くなりにくく、穂木が倒れることがなくなります。
また、接ぎ木部も湿度と温度を保ちたいので、接ぎ木部が埋まるように挿します。
温床の設定温度や管理方法について
接いだところを湯煎で融解させたパラフインに浸けて皮膜を作るか,伸縮性のテープを巻いて固定した上で,
オガクズなどを詰めた挿し床に接ぎ木部位まで完全に床に埋まるように挿す。
そして挿し床全体を約30 ℃に温めて,接ぎ木部のカルスの発達を促す。
10 日くらいでカルスが台木と穂木の隙聞を埋め,両者の形成層や木部,師部組織が完全に繋がる(癒合する)。
その後,挿し床の温度を25℃ に下げ,発芽・発根を待つ。
台木部分から発根が始まれば,土の育苗床に移し,その後の管理は挿し木個体の育成の場合と全く同じである。
この方法によれば,その年の内に台木をもった苗木が育成できる。
農電電子サーモの設定温度を、挿し床全体の温度が約30℃になるように設定します。
接ぎ木部までの温度が30℃ほどになるように設定したいので、30~35℃くらいにします。
温床の設定後にビニールシートなどで覆って熱を逃がさないようにします。
温床で使った道具はノーデン園芸マット、農電電子サーモ 100V、ビニールシートです。
私は針金など組み合わせ温床を作りましたが、ノーデン園芸マットの上に下のような簡易的なビニール温室をのせるだけの方が簡単に温床を作成できます。
また可能であれば最初は、光を反射するタイベックシートやスノーテックス、ラブシートなどを上にかけるのをオススメします。
光を反射する=シートの下を暗くする理由は、発根するにはカルスを形成してから発根するプロセスをたどるからです。
そのカルスを形成するには暗い方が形成しやすいので、遮光する必要があるからです。
温床、サーモ、ビニール温室の全てがひとまとめになった【ひなたぼっこ900 HB-20】があれば簡単に温床ハウスが完成するのでおすすめです。
ブドウの接ぎ木をした後は殺菌剤とその後の管理
ブドウの穂木を苗床に挿した後は殺菌剤のベンレート水和剤を散布します。
殺菌剤を散布することで土の中や穂木についている雑菌を殺菌することができ、切り口から病気の侵入を防ぐことができます。
特にハウス内での温床栽培では過湿状態になるので雑菌が繁殖しやすい環境なので、カビや雑菌の繁殖を防ぐためにも定期的な殺菌剤の散布が重要です。
また、薄めたベンレート水和剤はジョウロなどで潅水代わりに散布すると、潅水の手間が省けて楽です。
温度管理
- 最初の10日間は癒合促進のため温度を30~35℃に設定
- 接ぎ木部が癒合をしたのを確認後、25℃に設定を変更し発根を促進させる
水分管理
- 最初にベンレート水和剤を散布することで殺菌と潅水を同時に行う。
- ビニールシートで保温しているのであまり乾かないが、1週間~10日毎に確認して潅水する。
- 殺菌剤の散布は雑菌が生えないように定期的(半月に1回)に散布する。
ブドウの接ぎ木に使用した道具
発根促進剤
切り口の保護剤
接ぎ木ナイフ
接ぎ木鋏
バーミキュライト
ノーデン園芸マット
農電電子サーモ100V
おすすめ
参考図書
まとめ
- 接ぎ木は4月以降に行う。
- 接ぎ木の前日に穂木を吸水させておき、当日枝の選別をする。
- 苗床に挿したあとは殺菌剤のベンレート水和剤を散布する。
- 温床は【ひなたぼっこ900 HB-20】がおすすめ。最初の10日間は接ぎ木部癒合を目的とし、30℃になるように加温する。癒合を確認したら底部が25℃になるように、温度を下げて発根を促す。
- 切り口には発根促進剤(ルートン)を塗布すると発根し易くなる。
\ ハウス・温床・温度設定機が一体化したおすすめ道具です/
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