ブドウの栽培 果樹の育種・品種改良

ブドウの交配方法・人工授粉を解説|品種改良で新品種を作ろう

2023年9月11日

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ブドウの品種改良を行う上での交配方法、交配時期、花粉つけ、作業方法を画像付きで解説をします。当園から作出された藤稔もピオーネと井川682を交配させて出来ました。

ブドウの開花時期を見逃すと交配できないので、品種毎の開花状況に注意しましょう。

 

ブドウの交配時期

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ブドウの交配時期 5月下旬~6月上旬

ブドウの交配時期は開花初期頃に行います。交配時期の5月下旬~6月上旬は神奈川県の露地栽培におけるおおよその時期です。品種によっても開花時期が変わるので注意しましょう。

また、ブドウは自家受粉(1本の木で果実が実る性質)できるため、粒が全て開花してしまうと自然交配してしまうので、人工交配はできません。

なので開花状況をこまめに確認しましょう。

 

ブドウの交配に必要な道具

交配に必要な道具 ・ピンセット
・交配用の袋(ブドウ袋)
・接ぎ木テープ(誘引テープ)
・ビニールタイ
あると便利な道具 ・ルーペ
・アウトドアチェア
・バット
・梵天

 

ピンセット

ピンセットは、小さな葯やキャップを外すのに必須の道具です。雄しべの葯はとても小さいので、先端が細くつまみやすいピンセットがおすすめです。

 

交配用袋(ブドウ袋)

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軸の上部にくびれが出来て取れそうな状態

交配用の袋(ブドウ袋)は通常のでも良いのですが6月上旬の時期では軸がとても柔らかく、通常のブドウ袋では袋の面積が広いため、風が吹く度に袋が煽られて軸が傷んで房がとれてしまいます。

なので風がもろに受けないような『袋の面積が小さめの交配袋』がおすすめです。もしくはブドウ袋を切って小さく加工します。※房が成長するにつれて、大きい袋に交換する必要がありますが。

 

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通気性があって花粉を通さない『高機能交配用袋』もあります。通気性がある分、風に煽られにくいので軸が折れにくく、さらに携帯用のヒートシーラーで口を留められるそうです。

ブドウ袋と違い軽いので、入り口の口のところをビニールタイで留めても問題ありません。

 

ルーペ

ルーペは葯がとても小さいのであると便利です。メガネタイプや、メガネの上に取り付けられるクリップタイプのルーペもあります。

 

アウトドアチェア

アウトドアチェアは、交配作業で同じ姿勢を長時間とるのであった方が良いです。脚立に腰掛けても良いんですが、クッション性がある椅子のが体が楽になるのでオススメです。

 

バットと梵天

バットは花粉用のブドウの房を置いて、花粉を梵天につける用として重宝します。開花している房を直接雌しべにつけるのも良いですが、梵天に花粉を纏わせるのが確実です。

 

ブドウの交配方法の手順

交配作業は晴れ/曇りかつ、気温の高い時間帯に行います。夕方以降は気温が下がるので、うまく受精できない可能性があるため日中に交配作業を行いましょう。

①先端の数段を切り落とす

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先端を切り落とした後の房

未開花または一部開花している房を見つけたら、房の先端から数段を切り落とします。

先端の数段を切り落とすのは花振るいを防ぐためです。花振るいは窒素過多や新梢の勢いが強すぎると、ブドウが開花しても授精せず、実がつかない現象を言います。

せっかく人工授粉しても実が付かなければ種が取れず失敗に終わってしまうので、それを防ぐために行います。

先端の数段を落とす理由は、

・先端の粒は十分な養分が行き渡らないので花振るいし易いから切る。

・種有りブドウでは房の長さを7~8cmほどにするので、奇形(海老反りなど)になりやすい(特に先端部分は曲がりやすい)から切る。

・先端を切ることで粒の肥大を促進させる(実際に肥大するという研究結果があります)。粒の肥大→種の生育を充実させる。

などです。

人工授粉する部分は1房に対して5~6段(25~30粒)と少ないので、花振るいはし難いと思いますが、実際の所、念のために行うという感じです。

 

②開花している粒は全て取り除く

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開花している粒は自家受粉の原因になるので全て取りぞきます。自家受粉をしてしまうと同じ品種同士の掛け合わせになってしまうので、交配は失敗に終わります。

また、開花している雌しべの柱頭には別の品種の花粉がついている可能性があるのも、粒を取り除く理由です。

 

③ピンセットでキャップと中の葯を取り除く

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開花している粒を取り除いたら開花していない粒のキャップを上手に剥がして、中の葯を取り除きます。この時、雌しべに傷がつくと受粉できなくなる可能性があるので注意しましょう。

 

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たまに雌しべや、雄しべが茶色く変色している場合があります。アザミウマや雑菌などの病害虫の被害にあっているため、見つけ次第、その粒は諦めて次の粒の作業に取り掛かりましょう。

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下から5~6段(25~30粒ほど)処理したら、それ以外の段は切り落とします。

おおよそ1房の処理時間は20~30分ほどかかります。キャップが取れやすい品種(シャインマスカット、藤稔など)、取れにくい品種(クイーンニーナなど)があるのでマチマチですが。

 

③雌しべに受粉させる

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花粉用に採取した房をバットなどに集めて、それを直接、処理した房の雌しべにポンポンと優しく叩きます。なすりつけるのも良いですが、今の時期の房はとても柔らかく折れやすいので注意しましょう。

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また、バットに花粉を溜めて梵天で受粉させるのも良いです。梵天の方が確実に受粉させられます。

 

④袋をかける

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袋は花粉交配用の高機能不織布 交配袋を使い、上部はビニールタイで縛りました。通気性があり(花粉を通さない)かつ軽いので軸折れが減少するのでオススメです。

 

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    強風やSSの送風で軸にくびれができた状態
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    袋が上過ぎると、房が伸びて袋を貫通する

通常のブドウ袋を使ってしまうと風やSSの送風でブラブラ揺れてしまい、『くびれ』ができて落ちてしまいます。(左の画像)

花粉をつけたら交配用の袋を取り付けます。房がこれからどんどん伸びてくるので、取り付け位置はやや下にしましょう。でないと房が袋を突き破って外に出てきてしまいます(右の画像)。

せっかく時間をかけて人工授粉したのに、房が落ちたら徒労になるので、袋にはしっかりお金をかけたほうが良いです。

 

交配してから20日後の房

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上のは交配が上手くいった房です。粒が大きくなっています。

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通気性がある交配袋を使用しているので、風で煽られず果軸が無事です。

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上の房は受粉が上手くいかなかった房です。粒が肥大しておらず脱粒しています。

 

⑤種の採取

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種の採取は、ブドウの房がしっかり収穫時期になったor過ぎた頃に採取します。粒がしっかりと熟していないと種も熟していないので発芽不良になりやすいので注意します。

種の保存方法や育苗については下記の記事で紹介しています。

 

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