梨の人工授粉作業の準備から現場での作業するときのポイントを解説します。
梨の花粉の馴化について


梨の輸入花粉の馴化の手順

花粉の馴化の流れ
- 輸入花粉は冷凍で届くので使用する前までは冷凍庫で保管します。
- 作業の2日前迄に冷凍庫から冷蔵庫へ移し一晩置く。
- 作業の1日前(24時間前)迄に発砲スチロール(またはボックス)に保冷剤と濡れタオルを敷き、その上に皿(もしくは厚くした新聞紙)を設置して花粉を取り出し吸湿(薬包紙の場合はそのままでも可)させます。
- 24時間ほどその状態においたら吸湿が完了し花粉が活動できる状態になります。※この時の環境は室内。冷蔵庫内では無い。
- 使用する日までの保管方法は、花粉を袋に移し替えてたものを発泡スチロールに入れて冷蔵庫で保管します。
一口メモ
実はメーカーによって馴化の方法はまちまちです。薬包紙のまま2日間室内(1日目はシリカゲルと一緒に、2日目はシリカゲルから出して)に置いておくだけでも馴化が可能です。この方法でも発芽率は保たれるようです。
輸入花粉と石松子(増量剤)
梨の輸入花粉の馴化の注意点

冷凍状態の花粉はかなりの乾燥状態なので適切な管理のもと吸湿させないと活動状態になりません。管理のポイントは発泡スチロールに入れて少し濡らしたタオルで湿度をコントロールする点です。吸湿完了後、1週間ほどは発芽率が維持されるというが、時間経過と共に発芽率は減少するので早めに使い切るのが鉄則です。なので、その日に石松子と混和した花粉は当日中に使い切るか、余ったら次回使う時の増量剤として使います。
ただ一番怖いのが輸入花粉は輸送の関係で発芽率が極端に低いものもあるそうです(5~20%とか)。輸入するときはまとめてコンテナなどで輸入するそうで、その際に内側と外側で湿度や温度の差が生じるため、外側にある花粉はその時点で吸湿してしまい、手元に届くときにはすでに発芽しきって期限が切れてしまい発芽率が極端に低いとか。。。「花粉にも当たり外れが存在するよ~」と小耳にはさみました。
注意点
- 馴化した輸入花粉は冷蔵庫で保管して、1週間ほどで使い切る。遅くなるほど発芽率が低下する。
- 石松子と混ぜた純花粉は当日中に使い切る。余ってしまったら翌日以降は増量剤として使う。
- 輸入花粉にも当たり外れがあるので注意する。(発芽率が極端に低いものもある)
梨の輸入花粉の発芽率

梨の貯蔵花粉の短時間馴化法

- 高湿順化法は温度20℃かつ湿度90%程度の条件で所定の時間馴化。
- 慣行順化法は温湿度変化の少ない実験室内(気温15℃かつ湿度70%程度)において、シリカゲル入りの貯蔵容器内で24時間、容器から取り出して室内で24時間馴化。
ココがポイント
- 薬包紙のまま2日間室内においとくだけでも馴化が可能。
- 馴化した花粉は冷蔵庫で保管し、1週間以内に使い切る。(遅くなるほど発芽率が低下する)
- 石松子と混和した花粉は当日中に使い切るか、余ったら次回使う時の増量剤として使う。
梨の授粉作業の手順

天気を確認する
基本的には晴れの日の気温が高い日に行います。また、前日に雨が降って翌日止んでいても花が濡れていたら乾くまで待ちましょう。ラブタッチやビッグダディ、花愛子などの花粉交配機や受粉用梵天を使う場合、花が濡れていると先端の羽毛や毛玉が濡れてしまうので、うまく受粉ができなくなります。コロンブスなどでしたら大丈夫かと思いますが、乾いてからの方が安心です。
受粉作業の時間帯と気温について
受粉作業の時間帯は午前10時〜午後3時の間に行います。できれば無風もしくは、風が弱い日にします。
理由
- 早朝だと低温のため、花粉管が伸びないので受精できない。
- 夕方になると、風などが吹いたり天候面での悪影響が出てきます。
- 低温にもなるので、やはり花粉管が伸びにくくなる。
花粉管の伸びなどは果樹によって異なりますが、基本の受粉作業の時間帯は、あまり変わりません。
ココがポイント
- 花が乾いている状態の時に行う
- 授粉作業は暖かい時間帯の午前10時〜午後3時の間に行う
- できれば無風もしくは風が弱い日にします
梨の花粉と増量剤を混合する
冷蔵庫で保管した花粉を30分~1時間ほど室温に移して馴化させます。馴化させて花粉と石松子(花粉増量剤)を花粉混合器に入れてシャカシャカ振って混ぜます。
花粉と石松子の割合
このときの花粉と石松子の割合は花粉の量に対して3~10倍の量の石松子を混ぜ合わせます。毎年だいたい3~6倍くらいで使用しています。
4倍の量の石松子をいれる場合
花粉10g+石松子40g=花粉混合粉50gとなります。
ここでいつも判断に迷うのですが、4倍なのか4倍希釈なのかどっちだ??ってなります。「花粉の量に対して4倍を投入する」は言い換えると【5倍希釈にする】ということです。
この希釈倍率は花粉の発芽率に関係するため、あまり薄くしてしまうと受粉しても花粉の発芽率が60~70%の場合、受粉しても授精しない(結実しない)恐れもあります。自分たちで採葯した花粉であれば(もちろん発芽率が良かったと確認済みの場合)5~6倍以上でも問題ないです。ただあまりに薄くしてしまうと結実率が悪くなるので3~4倍の範囲が適正かと思われます。
注意ポイント
また、作った花粉混合粉は余って次回使おうとしても発芽率が低下しているため持ち越しはできませんので注意しましょう。
増量剤に混ぜていなければ再度、シリカゲルと一緒に冷蔵庫で保管すれば数日は使えます。
梨の受粉可能な花の見分け方

受粉可能な花
雄しべの葯がピンク色かつ柱頭がしっかりしていれば授精能力がある状態の新鮮な花です。この状態の時に人工授粉の作業を行います。
受粉できない花
雄しべがすでに枯れていて綺麗なピンク色では無くなっています。この状態の花はすでに授精が終了した花なので、この花には授粉はしません。
受粉した状態の花
石松子が付着しているので受粉したかどうか判別できます。
梨の受粉作業の道具について

受粉作業に使う道具の一覧を紹介します。
梨の純花粉
石松子(増量剤・着色剤)
花粉混合器
梵天
花粉交配機(手動吹きつけ式)
花粉交配機(電動式)
上の画像は『ラブタッチ』という花粉交配機ですが、花愛子も同様に花粉を先端のノズルから排出してダチョウの毛にまとわりついて、それを花になすりつけて授粉させる道具です。梵天や手動式の花粉交配機の方が確実に授粉ができますが、少人数・大面積で授粉作業をするときは大変役に立つ道具です。
梨の長果枝と短果枝の開花時期の違い

短果枝の方が総じて開花は早くなり、開花時期はおおよそ同じになるので受粉作業が効率良く出来ます。
逆に長果枝の方は開花が遅くなりますので受粉の作業は数回に分けて行う必要があります。
ココがポイント
- 長果枝と短果枝では開花時期に差が出るので受粉作業を数回にわけて行う
以上で解説は終了になります。受粉は時間との勝負ですので確実にやっていきたいですね。
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