梨の予備摘果の仕方とポイントを画像付きで分かりやすく紹介します。参考書などでは「3~5番果を残す」と書いてありますが、現場ではなかなかそうもいきません。3~5番果が虫食われや、受粉がうまくいかず、奇形果だったりなど。そこで、わかりやすいポイントをまとめてみました。
あわせて読みたい
梨の予備摘果の時期
梨の予備摘果の時期 | 4月中旬~4月末(満開日から20~30日後) |
---|---|
最初に予備摘果をする品種 | 開花が早かった品種(あけみず 香麗 なつみず 新高 愛宕 にっこり かおり 豊水など) |
予備摘果の中盤にする品種 | 収穫時期が早い品種(幸水など) |
花が散って果実が膨らんできた頃に予備摘果を行います。まだ花弁(花びら)が付いているころでは果実が小さいので判断がつきにくいです。後述しますが、受精がうまくいかなかった花は葉柄が黄色く変色して『ポロッと』自然に落ちるのも花弁が落ちる時期と同じなので、その頃が予備摘果の狙い目です。
梨の予備摘果は『4/30日頃までに』行い、果実数をある程度減らせておくと良いです。果実の細胞は30日頃までに増えてそれ以降は増加すること無いので果実が多いと養分が分散してしまい、結果として1果の細胞数が減少してしまいます。すると果実が大きくならないため大玉の果実が少なくなってしまいます。『30日までは細胞数が増殖する期間』、それ以降は『細胞が肥大する期間』になります。
さらに詳しく
開花が早い品種ほど予備摘果が早くできますが、栽培している品種全てが予備摘果できる段階(玉の大きさ)になった時期からは、収穫が早い品種を優先順位的に予備摘果を行います。
幸水など収穫時期が早い品種は生育サイクルは早く、細胞肥大などがドンドン進むので優先して行います。
開花について
予備摘果をする時期が早すぎると軸折れが多発する?
ナシの「あきづき」では満開後20~40日間では、予備摘果の時期が早いほど果実肥大は良いのですが肥大後に軸折れして落果する傾向が高いそうです。ナシの面積が広いほど早めに始めたくなりますが、軸折れする可能性もあるので予備摘果の時期には注意を払いましょう。
地域の環境・気候で梨の摘果時期をズラす
摘果には予備摘果→本摘果と順序があり4月上中旬頃から予備摘果を行いますが、地域の環境や経営作物により変わってきます。例えば5月に雹害が必ず発生する地域ではなるべく多くの果実を残し、雹が降ったあとに本摘果をおこなったりなどします。※そのときに一気に本摘果を行う(予備摘果をせずに)。例えば、ここ藤沢ではGW中に雹が降る傾向があるので本摘果の時期をGW明け位にするなどしています。
逆に雹害や鳥獣害が少ない地域では、いきなり本摘果をして空いた時間を他の作物の作業にあてたりなど。作業の指標はありますが、経営作物や環境によって時期を見ながら行います。もちろん、さっさと終わらせた方が栄養が分散せずに良い果実になります。
梨の予備摘果の基礎知識
予備摘果の基礎
果実の数え方『3~5番果が良い果実になりやすい』
下から順番に1番果、2番果と数えていきます。梨の摘果において『3~5番目の果実を残す』とよく言われています。1~2番果は生育が早い分、肥大は良いのですが変形しやすく『有てい果』になりやすい性質があります。6番果以降はやや肥大が劣る傾向があるので、3~5番目の果実の中から肥大の良い果実・軸が長く太い果実を選んで残します。
子持ち果について
1つの果そうの中で果実のグループが2つに分かれている場合、葉っぱがついているグループ(画像では黄色の矢印)の方を『子持ち果』と呼びます。この子持ち果はもう片方の分岐した果実に比べて生育が遅い傾向があるので子持ち果は摘果するのが通例でしたが、最近の研究では『特に気にする必要は無い』との話を聞いています。なので子持ち果に良い果実があればそれを残しても問題ありません。
『果そう』の数え方
結果枝の付け根から出ている花芽を『果そう』と呼びます。この果そうが途中で分岐している場合でも予備摘果は1果そうに必ず1つの果実に絞ります。初心者は分岐しているからといって1果ずつ残しがちですが、これだけ果実同士の距離が近いと果実が大きくなった時に擦れたりぶつかったりして実が傷む可能性が高いです。また、果実が接触している面は農薬がかかりづらいので虫が入りやすく廃棄処分になりやすいです。果実同士の距離を離すのは収量に影響するので、必ず『1果そうに1果』のルールを守りましょう。
摘果の仕方
摘果は玉(果実)だけ切ります。玉を失った軸(果軸)は自然にポロッと落ちるので。鋏はぶどう鋏を使っています。
玉を切った軸は黄色く変色して自然にポロッと落ちます。
手で葉っぱをかき分けて確認する
①手で葉っぱをかき分けて、ちゃんと果実を1果そうずつ確認しながら摘果をします。こうすることで目残し(見逃し)を減らせることが出来ます。
②果実の裏側に虫食いや病気がついていたり、奇形の場合もあるので、残す果実は裏側まで確認します。
面倒だけどこれが一番大事です!手でかき分けずに目で見える範囲だけをやってしまうと、必ず目残しが発生し、二度手間になります。
③1本の木の予備摘果が一回り終わったら、目残しが無いか、必ずもう一度一回りして確認します。
特に、1本の木を2人がかりで摘果する場合は、目残しがで出やすい(この枝は相手がやってくれるだろうと思ってしまう)ので、確認を徹底しましょう。
長果枝と短果枝の果実の違い
枝の種類 | 開花・結実の時期 | 果軸の長さ |
---|---|---|
長果枝 | 開花~結実までが遅い傾向 | 短い傾向 |
短果枝 | 開花~結実までが早い傾向 | 長い傾向 |
長果枝は短果枝に比べて開花~結実までが遅く、芽の養分が充実していない傾向があるので果実の軸が短いことが多い。
短果枝は芽の養分が充実しているので開花~結実が長果枝に比べて早く、果実の軸が長い傾向がある。
このことから(品種によるが)短果枝をメインに残す剪定方法が選ばれることが多い。
梨の予備摘果で必ず摘果する枝・箇所
必ず摘果する枝・箇所
結果枝の先端と二番目
結果枝は棚にべったりと平らに誘引してある枝です。この枝の先端2カ所は必ず摘果をします。先端の2カ所は新梢を伸ばすことで先端まで養分を引っ張る役割があります。先端に果実が実っていると、新梢にいく養分が果実に行ってしまい伸びなくなり先端まで行くはずの養分が均一にいかなくなり、枝の生育バランスが崩れてしまいます。なので必ず先端2カ所は全摘果をします。
また、冬の剪定の時に先端は上向きの芽で切るので、次の芽の位置は自然と下向き方向になります(花序の関係で)。下向きの芽は基本的には摘果するので収穫量が下がることはありません。
予備枝
15~30cmくらいの長さで誘引角度が45°くらいの1年枝を予備枝と呼んでいます。この予備枝はあえて短く切り戻して、強い新梢を出させています。ここに果実をつけてしまうと果実の方に養分がいってしまい、来年使う予定のしっかりした枝にならなくなります。枝に養分を集中させ、良い花芽を着かせるために全摘果をします。
待ち枝
待ち枝(まちえだ)とは長くて太めの1年枝(60cm~1mくらい)で棚から30°~45°ほどに誘引している枝を指します。来年の結果枝として使うための長い予備枝となります。枝の途中から徒長枝を出させないように(枝の途中に短果枝をつけさせるために)、棚から約30~45°くらい上に誘引して先端の新梢を強く出させています(※先端の位置を高くすることで枝の途中から強い新梢を出させないようにしている)。なのでこの枝についている果実は全て摘果します。
左の画像のように果実を摘果することで、しっかりした短果枝がつきます。
逆に果実を実らせてしまうと右の画像のように短果枝がつかずにハゲてしまい来年の収量が減ってしまいます。これは人気の梨の『あきづき』によく見られる光景です。『あきづき』は果実が実ったところは短果枝になりにくい性質があるため、積極的に待ち枝を配置しないと安定した収量が確保できなくなります。
冬期の待ち枝の剪定方法は下記に記載しています。
あわせて読みたい
主枝・亜主枝に直接ついている果実
基本的に果実は結果枝(側枝)に実らせるので主枝や亜主枝上にある果実は全て落とします。主枝上に果実を実らせると養分が果実に行ってしまい、新梢(側枝候補)が出にくくなってしまうからです。
左の画像は主枝と亜主枝。これに直接ついている果実は全て摘果します。
右の画像は主枝から発生した新梢です。主枝に直接ついている果実を摘果することで、新梢をつくる養分に使われます。
果そうに葉が無い果実
果そうに葉っぱが無い果実は良い果実になりにくいので、基本的には摘果する。しかし結果枝に果実が少なければ実らせても良い。
主枝・亜主枝の先端
主枝や亜主枝の先端は養分を引っ張る部分なので果実は実らせません。仮に実らせたとしても高い位置にある果実は収穫がしにくく、風であおられて枝や葉っぱに当たってしまいキズがついてしまいます。
摘果の時期なのに花が咲いている箇所
他は果実ができている時期に花が咲いている場合があります。摘果の時期の初期~中期ならそのまま残しても良いですが、後期に入ってから花が咲いている場合は全て摘花をします。そのまま残しても肥大が悪く小玉果しかできないためです。
梨の予備摘果の手順
①摘果する果実
- 病害虫の被害果を摘果する。
- 受精不良の果軸が黄変した果実を摘果する。
- 奇形果を摘果する。
- 軸が短い果実を摘果する。
- 軸が細い果実を摘果する。
- 果実が小さいものを摘果する。
- 下向きの果実を摘果する(品種による)。
②残す果実
- 軸が長くて太い果実。
- 玉の形が綺麗で大きい果実。
- 皿カムリ型の果実(有てい果でも可)。
- 3~5番果の果実(気にしなくても良い)。
- 子持ち果では無い方の果実(気にしなくても良い)。
このように、不要な果実を摘果したあとに残す果実を選ぶと初心者でも判断がし易くなります。慣れてくれば最初に一番良い果実を選んで、それ以外を全摘果するのが効率的です。
梨の予備摘果の摘果する果実の一覧
①摘果する果実
病害虫の被害果
病虫害の被害果実は落とす。これはもうパット見で判断がつきます。明らかに分かるので直ぐに落としましょう。
果軸が黄変した果実
軸が黄色くなっているのは正常に授粉しなかった果実です。そのままにしておけばポロッと自然に取れますが、これを残しておくと果実が実らないので注意。
果軸が黄色いものは触るとポロッと取れます。
奇形果
果実に凹みがあるなどの奇形果は摘果します。成長しても凹んだままのため商品価値が低下するためです。
軸が短い果実
軸が短いと果実が大きくなったときに自重でポキッと折れて落果する『軸折れ』が発生しやすいです。どんなに果実の形・大きさが良くても軸が短いものは摘果します。
軸が細い果実・果実が小さい
軸が細いと生育不良になりやすいため、他と比較して軸が細い果実は摘果します。
果実の大きさは、ほぼ今の段階で最終的な果実の大きさが決まるのでなるべく大きいのを残します。基本的には現段階で小さいものは摘果します(香麗・なつみず等の大玉になる品種は例外で、現段階で果実が小さくても軸が長いものを優先的に残します。後々に肥大するためです。)
下向きの果実(品種による)
長果枝の場合が多いのですが、果実の付け根が下向きになっているものは摘果します。下向きの果実は葉の影になりやすく、スレて果皮が汚くなったり病気になりやすいためです。また、上向き果は果実が大きくなると重さに耐えきれず、軸折れが発生しやすいです。
ただし、筑水や新水、秋麗などの品種は元から軸が短い傾向があるので下向きの果実は残すことが多いです。下向きの方が軸折れがしにくいので収穫量を確保できるからです。
梨の予備摘果で残す果実の一覧
軸が長くて太い果実
基本は軸が長くしっかりしていて果実が大きいものを残す。軸が短いと果実が大きくなった時に果重に耐えきれず果実が折れてしまうので、軸が長くしっかりとしたものを残します。
軸の長さが変わらなければ玉の大きさと形で最終的に残すモノを選びます。
上の画像のどちらを残すかを考える時に、先ほど記載した軸の長さがポイントになります。一見、左の果実の方が果実が大きいから良さそうに見えますが、こちらは軸が短いので摘果します。
ただし、長くしっかりしていても果実が小さいと収穫時も果実が小さいものになってしまいます。なので軸の長さ太さを確認後→その中でも果実が大きいものを残します。
皿カムリ型の果実
同じ大きさ・軸が長く、食害もない果実が複数あった場合はこれを基準にします。お皿を被ったような形の果実、いわゆるサラカムリ型を残します。
サラカムリ型の果実は萼(がく)が無いため、果底部(梨のお尻)が綺麗。
有てい果について
関連
摘果の関連記事