短梢剪定のメリットは剪定が容易で、時間の短縮に繋がります。
ブドウの短梢剪定のメリット
剪定が簡単に誰でもできる・剪定時間が圧倒的に短くなる
長梢剪定では枝の太さ・木の樹勢によって残す節数を考えて剪定します。
ですが短梢剪定では、単純に2~3芽を残して上のように剪定するだけでOKな単純作業なので、誰でもできる剪定方法になります。
表2 主要管理作業時間の比較(山梨果試、平成8年)
作業項目 | 短梢栽培 | 長梢栽培 |
---|---|---|
剪定 | 12.5(33) | 37.8 |
新梢管理 | 69.0(96) | 71.9 |
果房管理 | 106.5(86) | 124.1 |
ジベレリン処理 | 15.6(56) | 27.7 |
カサ・袋掛け | 49.3(92) | 53.3 |
合計 | 252.9(80) | 314.8 |
※10aあたりの作業時間
※( )内は、長梢栽培に対する割合(%)
引用
上記の表のように、長梢剪定に比べて剪定時間が20時間も減らせています。
ほかの作業も同様にかなり時間短縮できます。
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作業の動線が一直線
木の形が一文字型(真っすぐ一本)・H型・WH型など形が決まっています。
動線が一直線なので、枝の誘引や摘粒をしたら単純に横に移動すればいいだけで、長梢剪定のように次の枝を探す時間が不要です。
上のように横方向真っすぐに新梢が出ているので、誘引などがものすごく楽です。
1本あたりの樹冠面積が小さく管理し易い
引用
上の図のようにブドウの短梢剪定の樹形は長さや幅がある程度決まっています。
【ある程度】と書いたのは、その畑の土壌の性質によって主枝の長さを、長くしたり短くしたりするからです。
詳しくは割愛しますが、火山灰土壌などの肥沃な土では主枝は長く、逆に砂質土壌などの主枝は短くします。
このように1本当たりの面積が小さくなるので、どこに植えるのかという植栽計画が容易に設計できますし、1本枯れたときの収穫量が激減するリスクを減らせられます。
ブドウの黒とう病にかかりにくくなる
黒とう病は結果母枝の芽の付近に潜伏しているため、短梢剪定のほうが結果母枝を短く切るため、発病リスクを下げられます。
結果母枝に薄めたトップジンMペーストを塗布することでも黒とう病の発生を減少できます。
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ブドウの果実品質への影響は少ない
下記が短梢栽培と長梢栽培の果実品質の違いについてのデータです。
房重が若干、短梢栽培の方が重いくらいで、糖度をみても短梢剪定と長梢剪定はほぼ変化はありません。
長梢栽培と短梢栽培の果実品質の違い(山梨果試)
項目 | 仕立て | 収穫はじめ | 房長 | 房重 | 着粒数 | 果粒重/粒 | 着粒密度 粒/cm |
着色 z) c.c |
糖度 Brix |
酸度 g/100ml |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
巨峰 | 短梢 | 8/26 | 15.8cm | 531.2g | 35.6 | 14.8g | 4.2 | 11.3 | 16.8 | 0.70 |
長梢 | 8/25 | 14.8cm | 451.9g | 35.7 | 12.8g | 4.4 | 11.3 | 16.7 | 0.70 | |
ピオーネ | 短梢 | 8/31 | 15.3cm | 583.6g | 33.0 | 18.0g | 4.2 | 10.9 | 17.7 | 0.57 |
長梢 | 8/29 | 15.7cm | 558.1g | 33.1 | 17.4g | 4.1 | 10.8 | 17.3 | 0.61 |
z) カラーチャート(12段階)による評価
平成15~17年の平均値
引用
ブドウの短梢剪定のデメリット
種なしブドウしか作れない
2~3芽残して剪定すると、出てくる新梢は樹勢が強い枝ばかりになります。
樹勢が強いと言うことは栄養成長>生殖成長となるので花振るいが生じます。
花振るいとは?
結実不良のことを指します。開花しても受粉がうまくいかなかったり、受粉しても結実が出来ないままに、花が落ちてしまい、房にならないことです。
新梢の樹勢が強いと種ありブドウでは実がつかないので、ついたとしてもボロボロの房になってしまいます。
なので短梢剪定の場合はジベレリン処理を行い、強制的に着果させてつくる種無しブドウしかできないのです。
種無しブドウしかできないと言っても、種無しブドウの需要のほうが大きいので特に問題はありません。
種無しブドウと種ありブドウのどちらが美味しいか?
種ありブドウの方が美味しい派VS種無しブドウの方が美味しい派の戦いがあるのですが、
結局のところ美味しいかどうかは、生産者の施肥管理や栽培管理によって変わります。
収穫時期が少し早いと渋みが残っていたり、甘みが薄く皮が固かったりします。
それは種無し・種ありブドウどちらも共通します。
単純に種があるから甘い、種が無いから甘くないということはあり得ません。
ただし、種無しブドウにすることで肉質が変わる(肉質が締まる)のは確かです。
当園で栽培している竜宝はとても柔らかい肉質が特徴が目玉のため、種ありで栽培しています。
逆に藤稔は肉質がやや締まって、粒も大きくなり食べ易くなるので、種無し栽培にしています。
どちらも一長一短があるので、品種によって変えたりなど、ご自分の経営に適した栽培方法がベストです。
房の形が悪くなりやすい
2~3芽など極端に切り戻すので、出てくる新梢の樹勢が強くなります。
そうなると新梢につく房の形が悪くなりやすい欠点があります。
具体的には、残す節数(長さ)が多いと栄養が分散するので、その枝から出る新梢の勢いが弱くなり、良い房ができにくくなります。
反対に残す節数が少ないと養分が集中してしまい、新梢の樹勢が強くなります。
そうなると生殖成長>栄養成長となり、房ができなかったり房型が悪くなります。
ただし、この場合は主枝の長さや施肥である程度コントロールできます。
樹勢が強すぎる場合は、施肥をすこし減らしたり、主枝の長さを長くすることで樹勢を落ち着かせることが可能です。
また、できたブドウの房の形も、肩が張る(上部が出っぱる)ため、販売方法によっては注意が必要です。
収穫時期が遅くなる
勢いよく新梢がでますが、それによって生殖成長が遅くなります
樹勢が強いということは、栄養成長>生殖成長の比率になるので、長梢剪定に比べて収穫時期が遅くなります。
ただし、環状剥皮処理や光反射シートを設置することで、着色を促進できるので収穫時期を早めることが可能です。
なので収穫時期が遅くなると言ってもコントロールできる範囲になります。
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ブドウの短梢剪定のメリット・デメリット【まとめ】
- 剪定が簡単に誰でもできる
- 剪定時間が圧倒的に短くなる【時間短縮】
- 新梢や房の位置が一律なのでジベレリン処理や摘粒などの作業の移動時間が短縮かつ効率化
- 作業の動線がハッキリと分かるので、作業体系や圃場図を作成しやすい
- 1本あたりの樹冠面積が小さいので、木の入れ替え時の収穫量激減リスクを減らせる
- 木を無理やりコンパクトに作っているので樹勢が強くなる
- 新梢の樹勢が強いことで、種無しブドウしか作れない
- 新梢の樹勢が強いので、生殖成長<栄養成長になり、収穫時期が遅くなる
- 新梢の樹勢が強いので、房がつかなかったり、ブドウの房型が悪くなりやすい
- ブドウの房型が肩を張るような形になりやすい。
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